8: 吸い込んだPM2.5や黄砂はどこへ行く?
吸い込んだPM2.5や黄砂が全て体内に溜まって行くわけではありません。粒子の大きなものは鼻毛や喉の粘膜に付着して、鼻水や咳、そして通常の呼吸で排出されます。PM10(粒の大きさが10μm)くらいがそれに相当します。
しかし5μm以下になると気管支や肺まで粒子は到達しはじめ、2.5μm以下いわゆるPM2.5ではより顕著になる傾向が。とはいえ、1μmの大きさであっても肺胞まで達する粒子は、吸入した量の1割程度。残りはやはり呼吸などで排出されます。
また沈着した1割の粒子も、吸湿性のものは身体の浄化機能によりゆっくりと除去されていきます。しかし不溶性のものは長らく体内に留まる傾向があるので問題です。
結局のところ身体の機能により、取り込まれたPMは自然に除去されますが、除去する量よりも取り込まれる量が多くなってしまうと、除去が追いつかなくなり、身体に悪影響を及ぼすというカラクリなのです。
9: アレルギー症状
PMが肺まで届かずとも、目や鼻の粘膜に触れるだけで炎症が起きることがあります。特にディーゼル排気ガス (DE) やディーゼル排気微粒子 (DEP) によるものは花粉などのアレルゲンと結び付いて、目のかゆみやくしゃみ、鼻水などのアレルギー症状を酷くしてしまうことが多いのです。
PM2.5が多く発生する冬の終わりから春の終わりにかけては、ちょうど花粉が舞うシーズンでもあり、おまけに黄砂まで飛んで来る季節。花粉症の悪化を促進してしまう最悪のタイミングとも言えるでしょう。
10: 気管支炎、ぜんそく
呼吸によって取り込まれたPM2.5や黄砂が気管支や肺に到達すると、刺激を起こしてそこが炎症になります。気管支の炎症はすなわち気道の幅を狭くすることですので、空気が通りにくくなり息苦しさを感じるわけです。
気管支炎とぜんそくは気道の炎症という点では同じ症状ですが、実は異なる別の病気。
気管支炎は基本的にウイルス性のものです。インフルエンザに罹ると咳が激しくなるなどが分かりやすい例ですね。しかし、ウイルスや細菌だけでなくPM2.5が気管支炎の原因になることもあります。
ぜんそくはアレルゲンが原因です。そしてPM2.5もまた大きな原因のひとつ。要は身体が花粉やハウスダストなどにアレルギー反応を起こしてしまうことで起きる症状です。
気管支炎にしろぜんそくにしろ、炎症を抑えねば快癒しません。炎症を抑えようにも次から次へとPM2.5が体内に供給されてしまうようでは、治まるどころか悪化し、症状が慢性化してしまいます。
PM2.5濃度の高い日が続いたあとや、黄砂の大量飛来日のあとに咳などの症状が悪化するのはこのためです。
11: ぜんそくとPM2.5
兵庫医科大学の公衆衛生学主任教授・島正之氏らによる「大気汚染の短期的変動が気管支喘息の病態に及ぼす影響に関する研究」では、5年の歳月を掛け、兵庫県姫路市内で医師会などの協力に基づくPM2.5の調査が行われました。
その結果、大気1立方m中のPM2.5濃度が環境基本法第16条第1項に基づく35μgを越えた日が週に1回あるだけで、ぜんそくの発作の発生が7%上昇することが判明。しかも14歳未満では倍近い13%もの上昇率を記録しています。
さらに成分単位の分析により、大気中に硫酸イオン(sulfate)が含まれていた場合は発作率が10%上昇しました。
硫酸イオンは硫酸塩結晶中にも存在する硫黄化合物。化石燃料や火山ガスに含まれる硫黄成分から生じた酸化硫黄(SO2)から生じます。
つまりぜんそくを引き起こすPM2.5の正体は、やはり石炭やディーゼル燃料による大気汚染ということになるわけです。